気迫
本気は迫る。
●「わたしは間違っていた」
翌朝、塚本は緊急役員会を開き、そう宣言した。
「やっと自分は目覚めた。本当の意味での相互信頼の経営をやる。そ
のためには、まず自分が変わるしかない。今日を境に、全社員を信頼
する。徹底的に信頼しきる」と宣言。同時に四つの方針を打ち出した。
1.遅刻早退などは、いっさい人事考課に反映させない
2.工場部門でも、人間不信にもとづく日給制を廃止。人間信頼に基
づく月給制を導入する。
3.部署や役職によって差をつけていた社員ユニフォームを統一する
4.組合の正式な要求は100%自動的に承認する●実は4番目が一番大きな問題だったのだ。塚本は、経営の実績とは
無関係に過度な要求をしてくる組合を心から信頼できていなかった。
一方で、「自分たちは経営側から嫌われている。だったら、とことん
経営側と戦ってやれ」と組合側は思っていたのだろう。●塚本決死の社内発表後、最初の冬がやってきた。
組合側から冬季賞与の要求が経営陣に提出される日だ。交渉の場に臨
んだ塚本は臨席した総務部長から「本当に要求通りで妥結するのです
か?」と念を押された。●「もちろん!」と塚本。
書面で提出された文面を見る間もなく、塚本は決済印を押した。いわ
ゆる"めくら判"だ。
判を押してから要求金額を見る塚本。数字をみてビックリした。
四つの方針発表を打ち出す頃と変わらないムリな要求をしてきていた
のだ。●組合側を前にして総務部長が塚本に聞く。
「本当にこれで大丈夫なのでしょうか?」「俺は知らん」と塚本。
相互信頼に基づいて自分は約束を果たした。あとはみんなが何を果た
してくれるのかを期待して待つのみだ、と。その結果、会社が倒れる
ことがあれば、それも運命。